出資法は、貸金業者などを規制する法律で、出資金の受け入れの制限や金利設定を取り決めており、銀行など法律で認可されている業者以外のものが貸金業として不特定多数から資金を集めたりする行為を禁止しています。一部の個人取引も出資法違反の対象となります。
正式名称は「出資の受け入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」です。
1954年に制定された出資法は、1953年の保全経済会事件をきっかけに制定されました。
※保全経斎会事件・・高配当を保証した誇大広告によって不特定多数から資金を集めた匿名組合・保全経済界が、その後経営低迷し、休業を宣言。出資金の支払いを停止し、利用者への返済能力も停止しました。会員数はピーク時には15万人に達し、その被害額総額は44億円にのぼります。
出資法が制定される以前、戦後の混乱も伴い、日本国内には貸金業者の利用者を適切に保護する法律が無く、現在では考えれない暴利で貸金業を営む業者も多く存在していました。けれども同会の代表の「保全経済会は匿名組合なので出資金を返す必要がない」とした法廷での主張により、投資と預り金の境界の不透明さが議論されることになりました。
こうした背景を受け、貸金業者を利用する消費者保護も視野に入れた出資法が翌年制定されました。出資法に違反すれば刑事的処罰の対象となります。
また出資法は、過払い請求の原因であるグレーゾーン金利を産み出した法律としても知られています。グレーゾーン金利に関してはその後改定が成され、現在ではグレーゾーン金利の原因となったみなし弁済の規定は完全撤廃されています。
こうした出資法が制定された時代の背景とその内容、また改正後の内容について詳しく見ていきましょう。
<出資法の制定された背景>
出資法が制定されたのは1954年。前述でも述べた通り、匿名組合・保全経済会による被害総額44億円にものぼる詐欺事件によって明確となった、投資と預り金の境界の不透明さを受け、これを改善すべく制定に至りました。
同事件を機に、出資などに関する消費者保護の必要性が度々議論されることとなりました。出資法は出資金の受け入れや金利の上限を定めていますが、主に知られている役割は金利の規制という面でしょう。
<出資法の上限金利>
出資法の上限金利は、制定当時には年109,5%(うるう年には109,8%)と定められていました。ですがこの金利は段階的に引き下げられ、現在では20%と定められています。
上限金利の変遷は以下の通り。
1. 金利年109.5%(1954年)
2. 金利年73.0%(1986年10月31日まで)
3. 金利年54.75%(1991年10月31日まで)
4. 金利年40.004%( 2000年5月31日まで)
5. 金利年29.2%(2010年6月17日まで)
6. 金利年20.0%(2010年6月18日から)
1954年から1986年に至るまで約30年間に渡り、109%という高金利が出資法で定められていたことになります。その後、後に述べるグレーゾーン金利等の問題を受け、上限金利は5回に渡り改定され、現在の適正金利に落ち着きました。
また、当時社会問題となった貸金業者の過剰な取り立て行為が社会問題となったことも大きな要因です。さらに返済能力を明らかに超えた過剰融資が当時は許されていたため、債務問題を抱え、自殺に追い込まれる貸金利用者が増加しました。
また、1999年には、商工ローン問題も発生しました。
※商工ローン問題・・商工ローンとは、企業の経営者向けの事業者資金のローンサービスです。銀行融資を受けられない中小企業向けのローンで審査が甘い反面、高金利と非人道的な言葉による取り立て行為が問題となりました。
この問題を受け、翌年、出資法の上限金利は40%にまで引き下げられました。けれど、この時点でもまだ出資法の高金利に対して社会からの批判は強いものでした。
<出資法違反による刑罰>
出資法の上限金利に違反すると、刑事的処罰を受けることとなります。
出資法第5条2項
前項の規定にかかわらず、金銭の貸し付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年20%を超える割合による利息の契約をしたときは、5年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払いを要求した者も、同様とする。
上限金利に違反した場合には5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金それぞれ、あるいは両方の処罰が課されます。
<出資法違反の例>
上限金利に違反した金利の貸付け意外にも、出資法違反となる例がいくつかあります。以下にまとめました。
・不特定多数への出資金の受け入れ
出資法第1条
何人も、不特定且つ多数の物に対し、後日出資の払いもどしとして出資金の全額若しくはこれをこえる金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し、又は暗黙のうちに示して、出資金の受入をしてはならない。
これは、出資法制定の原因ともなった保全経済会事件がきっかけとなっています。
・第2条では、「預り金」を行うことを禁止
出資法第2条
業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない。
2 前項の「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れであって、次に掲げるものをいう。
一預金、貯金、又は定期預金の受入れ
二社債、借入金その他いかなる名義をもってするかを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの
※預り金とは・・不特定多数からの金銭の受入れ。ただし銀行法・信用金庫法など他の法律で規定されているものは例外。
・第3条では、「浮貸し うきがし」を禁止
出資法第3条
金融機関(銀行、信託会社、保険会社、信用金庫、信用金庫連合会、労働金庫、労働金庫連合会、農林中央金庫、株式会社商工組合中央金庫、株式会社日本制作投資銀行並びに信用協同組合、水産業協同組合その他の貯金の受入れを行う組合をいう。)の役員、職員その他の従業者は、その地位を利用し、自己又は当該金融機関以外の第三者の利益を図るため、金銭の貸付け、金銭の貸借の媒介又は債務の保証をしてはならない。
※浮貸しとは・・金融機関の従業員が、業務外での利益を目的として、従業員としての立場を利用して金銭の貸付けを行う行為。つまりは金融機関という立場を利用した正規とは異なる業務ということになります。
<金利を定める法律>
出資法と共に、金利を定める法律がもう1つあります。それは利息制限法です。
利息制限法は貸金業者が高金利を設定できないよう金利の上限を定めた法律です。
利息制限法の定める上限金利は以下の通り。
・元本が10万円未満の場合は年20%
・元本が10万円以上100万円未満の場合は年18%
・100万円以上の場合は年15%
※利息制限法1条より
利息制限法の上限金利は、元本の金額によって分けられています。元本が上がるほど、年率が下がるので制定当時より出資法よりも利用者保護が手厚い法律であったといえます。
また利息制限法が出資法と大きく異なる点は、違反した場合に刑事的処罰の対象とならないことです。ただし利息制限法に違反した場合には民事上で裁かれることとなり、貸金業者の登録取り消しや業務停止命令といった行政処分の対象となります。
出資法ほど重い処罰ではありませんが、行政処分は貸金業者の名誉を大いに損害するものとなるので場合によっては刑事的処罰よりも重い罰といえるでしょう。
また、出資法の上限金利が5回に渡り引き下げられたのに対して、利息制限法の上限金利は当時より適正金利を設定していたことも出資法との大きな違いの一つです。
<グレーゾーン金利>
前述した通りに、出資法と利息制限法の上限金利には制定当時から、大きな差が生じていました。けれど出資法に違反しなくとも利息制限法に違反していれば刑事的処罰は無くとも、行政処分の対象にはなっていました。つまりは、利息制限法を超える金利は通常なら無効ということになります。この差をグレーゾーンと呼びます。
けれど、この差に対し、一定の要件を満たす場合には処罰の対象にならない=みなし弁済とする法案が貸金業規制法には当時定められていたのです。
※貸金業規制法とは、現在の貸金業法の改定前の名称です。同法の制定以前は貸金業を取り締まる法律が無く、貸金業者による執拗異常の取り立て行為業者の運営の規定や違反した場合の処罰について定めた法律で、段階的に改定され、現在の法案に至っています。
これにより、本来なら違法となるはずの利息制限法を超えた金利も、みなし弁済を適用すれば合法になっていたのです。貸金業者から融資を受けた利用者は、通常金利に加えて過剰ともいえる金利を支払う必要に迫られました。この過剰金利がグレーゾーン金利と呼ばれるもので、現在でもこの過剰金利によって過払い金請求に悩む債務者が存在しています。
<グレーゾーン金利撤廃までの背景>
みなし弁済によって生み出されたグレーゾーン金利によって、利用者は経済的に圧迫され、中には1つの貸金業者への借金を返済するためにまた別の業者から借金をし、多重債務を抱えることになり、借金のループに苦しむ多重債務者が増加しました。
これにより、みなし弁済を撤廃すべきという社会の声が大きくなり、2006年の最高裁判決で、みなし弁済の適用が否定される判決が言い渡されたのです。
これによって2010年、貸金業法が改正、みなし弁済規定が正式に撤廃されました。利息制限法を超える金利は行政処分の対象となる規定も追加されました。
<出資法 上限金利の引き下げ>
制定から徐々に引き下げられていた出資法の上限金利は、貸金業法のみなし弁済撤廃に伴い、20%にまで引き下げられました。ようやく利息制限法の上限金利と同じ比率となったのです。
こうした一連の貸金業にまつわる法案の改正で、消費者保護はさらに強化され、貸金業規制法の制定以前、都道府県に営業開始のための登録を済ませるだけの簡単な登録によって認可されていた貸金業者も大幅に減り、2004年には23000社あった貸金業者は2008年には1760社と一割以下に激減しました。こうしてようやく政府の目が行き届くまでに貸金業者は淘汰されたのです。
<まとめ>
出資法が制定された背景には、匿名組合・保全経済会の詐欺事件がありました。この事件によって消費者保護が叫ばれ、出資法では主に、出資の受入れや金銭の預かり義務について定められています。
なかでも注目されるのは出資法の上限金利にたいしての規律で、この上限金利は社会の背景や声を受け、数度に渡り引き下げられ現在の20%に落ち着いています。
この背景要因の一つであるのが、グレーゾーン金利で、この過剰金利によって今も過払い請求に苦しく債務者が存在しています。
現在では貸金業法はグレーゾーン金利を生んだみなし弁済を撤廃しており、出資法も適正金利にまで引き下げられ、グレーゾーン金利を支払う義務は無くなっています。
出資法は、時代を経て私たち消費者を保護する役割をより強めてきました。
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